敷金の返還
今回は賃貸借契約終了時に、いつ、どの程度敷金が戻ってくるかという点について検討してみましょう。

 私は2年前に家賃5万円、敷金2カ月分で借家に入居しましたが、この春結婚が決まり、もう少し広いところに引っ越すことになりました。賃貸人から返還される敷金を、引越費用等に充てたいと考えているのですが、敷金はいつ返してもらえるのでしょうか。

 引っ越しには、相当な出費がつきものですから、賃借人の立場からすれば、敷金は遅くとも部屋の明け渡しと同時に返して欲しいというのが心情でしょう。
 しかし、敷金とは、賃貸借契約上の賃借人の債務を担保する目的で、賃借人から賃貸人に交付される金銭であり、判例はその担保の範囲を「賃貸借の終了後部屋明け渡しの履行までに生じる賃料相当額の損害賠償債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのある一切の債権」と考えています。そのため、賃借人に酷との批判も多いのですが、敷金の返還は、明け渡しの後にならないと請求できないのが実情です。

 そうすると実際明け渡すまでどのくらい敷金が戻ってくるか判らず不安なのですが。

 そうですね。敷金の返還を請求したところ、敷金の返還どころか修繕費用として高額な金銭の請求をされたという事実も多く見られます。
 たしかに、賃借人には、賃貸借契約終了時に賃借物を原状に(回)復して賃貸人に返還する必要があり(原状回復義務=民法六一六条、五九八条)ますが、この「原状回復」というのは、家具など賃借人が設置したものを取り除くということで、まっさらに近い状態にする義務を負わせるものではありません。
 しかし、原状回復義務の意味を誤解して不当な敷金の控除、修繕費用の請求をする賃貸人が見られ、間々トラブルの発生がみられます。

 たとえば、畳の表替えや、襖の張り替え費用などについては、通常の使用状態であれば敷金から控除することは原則として許されないといえます。
 もっとも、賃借人は賃貸人に対し、原状回復義務の他に善良な管理者の注意をもって目的物を管理する義務(善管注意義務=民法四〇〇条)を負っています。
 ですから、たばこの不始末で畳を焦がしてしまったなど、賃借人に故意あるいは過失があるような場合には、善管注意義務違反となり、その畳の表替え費用は、損害賠償債権にあたり、敷金から控除される事が多いでしょう。

 北海道では特に結露によって発生したカビが壁紙を汚してしまうことがありますが、このような壁紙の張り替え費用についても、ほとんどの場合、敷金から控除されることはないと考えるべきでしょう。結露の発生は、建物の構造に主な要因があり、賃借人の生活態度は副次的要因にすぎず、また冬にストーブを炊きすぎないよう控える義務が賃借人にあるとまでは言えないというのが理由です。

 質問の方のように、2年程度の賃貸であれば、よほど使用状態に問題がない限り、大部分の敷金が返してもらえるはずです。
 ただ、あとは賃貸借契約に特約があった場合には、色々な問題がでてきます。特約の条項そのものが有効かという問題と、有効だとしてもその特約の意味を賃借人が充分に理解していたかなどの問題が出てくるのです。
 今回は特約のない原則的な場合を検討しましたが、次回は特約のある場合について検討してみましょう。