動産売買の先取特権
法律相談 弁護士 成田 毅 ・ 弁護士 富川泰志
今回は、取引先に動産を売り渡したが、代金を回収できない場合、売主がその動産について有する担保権 (これを先取特権と言います)について検討します。
- Q 当社はかねてから取引をしているA社に300万円の機械一式を納品しましたが、約束の期日に代金の支払いがありません。担当者の収集した情報によるとA社は資金繰りが苦しく、他社への支払も遅れているようです。当社の機械はまだA社の倉庫に保管されているとのことです。売掛金回収のためにできることを教えてください。
- 成 ご相談内容によるとA社は資金繰りに相当窮しているようであり、近いうちに倒産することも予想されます。倒産すると売掛金回収はおろか、売り渡した機械の取り戻しも困難になりますから、その前に手を打つ必要があります。
- まず、御社はA社に対し代金支払を催告した上、代金不払を理由に売買契約を解除し、機械の返還を求めるべきでしょう。A社担当者と連絡がつかないような混乱した状況だとすれば、A社の倉庫に急行し、倉庫管理担当者を説得して、代金未払を理由に機械を引き揚げるようにします。その際、とりあえず預かり証を渡し、後日、赤伝処理してもらうようにします。
- 富 しかし、このようにいかない場合、法的措置を講じるほかありません。動産を売却した場合、売主には代金を受領するまでは、当該動産について先取特権という法定の担保権が認められており、その動産を競売にかけて代金を回収することができます。
- 動産の競売を申し立てるには、@当該動産を執行官に提出する方法A当該動産の占有者の差押えを承諾する文書を執行官に提出する方法B担保権の存在を証明する文書を裁判所に提出して動産競売の許可決定を得てこれを執行官に提出する方法があります。
- しかし本件のような事態では、@、Aの方法は実際不可能です。そこで、平成15年に改正された民事執行法により認められたBの方法により動産競売の申立てを行うことを検討します。
- Bの方法で言う「担保権の存在を証明する文書」とは、売買契約書とそれに基づき納品された商品の受領書などが考えられます。対象となる動産は特定されている必要があり、機械であれば製造番号、型番などによって特定され、売買契約書と受領書にも納品された機械と同一の製造番号、型番が記載されている必要があります。
- 成 裁判所の動産競売開始の許可決定は目的動産が債務者の住所その他債務者の占有する場所または債務者の占有する金庫等にある場合にしか認められません。従って、第三者が占有している場合には許可されません。本件では、債務者であるA社の倉庫に機械が保管されているので、この点は問題ありません。
- Q もし、競売によって差押える前にA社が当社の機械を転売してしまった場合はどうなるのでしょうか。
- 成 機械が転売された場合は、その転売代金債権に対して物上代位による動産売買先取特権の行使ができます。先取特権の具体的な行使方法として、御社は、転売代金債権に対して債権差押命令申立てをすることになりますが、その要件として、代金が転売先から買主に支払われる前に差押えをしなければなりません。支払がなされてしまうと、もう打つ手がありません。
- 富 債権差押命令申立てにおいても、担保権の存在を証明する文書の提出が求められます。先ほど述べた資料のほか、買主と転売先の間の売買契約書、納品書など転売代金債権の存在とその転売代金債権の対象が売主が買主に売り渡した商品であることを証明する資料を提出する必要があります。このような資料入手は転売先の協力が不可欠となるでしょう。
- 成・富 以上検討したように、動産売買先取特権の行使は迅速に行う必要があり、そのためには日頃から取引先の情報収集を怠らず、また、債権管理をきちんとして十分な証拠資料を確保しておくことが重要です。
