旭川から発信する情報コンテナ月刊北海道経済
月刊北海道経済は創刊以来40年。旭川市を中心とする道北地域の政治・経済・文化の話題を発信している雑誌です。
私は今は出版の仕事をしているが、実は長年酒類小売業を生業(なりわい)としてきた。祖父が旭川で大正2年に創業し、その後を父が、そして私が継ぎ、3代90年商売をさせていただいた。業界の盛衰はあったが、同業者で協業化したりして時代の節目を乗り切りのれんを守ってきた。
しかし昨年、その酒類小売業を廃業した。得意先は市内最大手の吉竹商事さんに引き受けてもらい、従業員への退職金はもちろんのこと銀行や問屋の借金を支払い、株主にも出資金をお返しして無事閉店することができた。
3代90年続いた事業に幕を引いた理由はいくつかあるが、やはり最大の理由は、酒類販売自由化が目前に迫っていたことである。
酒類販売は戦前から、酒税の確保を理由として規制があった。一定の条件を満たしていると税務署が認め、免許が与えられた業者だけが販売できたのである。卸も同様、特定の業者の特権であった。だから昔から、酒とタバコの販売免許を持っていれば一生喰いっぱぐれがないと言われていたのである。
98年に規制緩和推進3カ年計画が閣議決定されてから自由化が具体的にスタートした。店と店の間隔を定めた「距離基準」や、1店あたりの人口をもとにした「人口基準」などが徐々に除かれ、いよいよこの9月からは完全自由化となったのである。中小酒小売店の反発があって自由化を1年見合わせる調整区域『逆特区』も指定されたが、それは全エリアの27・3%、922地域に限られ、旭川市は完全自由化のエリアである。
当然、旭川でも新規参入組が続々登場することになる。
一部店舗でしか販売していなかったツルハは全店で扱いを始めるようだし、ツルハの当面のライバル・サンドラッグストアーも酒を扱うことによって集客効果が見込めると道内全店で免許取得をするようだ。スーパーやコンビニでこれまで扱っていなかった店が軒並み扱いを始めそうだし、ピザ宅配業者、回転寿司、シャトレーゼといった菓子店なども販売を計画しており“新規酒店”は乱立模様だ。
長年続いたのれんを守ってきた小規模な酒屋さんにとっては、何とも恐ろしい時代となったものである。先日放映された酒小売業界を扱ったテレビ特番では、経営者の自殺が急増していると報じていた。不況に加え、スーパーやコンビニに客をとられジリ貧の現状に追い討ちをかけるように自由化がスタートすることを悲観してのものだった。昨年まで酒小売業に携わっていた私にはかなりショッキングな内容の特番であった。
昨年1年間の国内での自殺者は約3万2000人。目立つのは、借金苦やリストラなど経済的な理由から自ら命を絶つ働き盛りの世代だそうだ。
「自由化」は、世界を席巻する米国流の市場原理が推し進めている。大変耳ざわりが良い言葉であるが、しかしそれは、常に勝つか負けるかの「弱肉強食」の過酷な世界である。果たしてこうした利益最優先で勝ち残ることだけを目指す現在の社会のあり方で良いのであろうか。政府のすすめている構造改革は雇用の増加につながっているとは思えず、弱者にばかりしわ寄せがいっているように見える。
小さな酒屋さんはやがて街角から消えてしまうのだろう。時代の変化といってしまえばそれまでだが、地域の人に愛され隆盛していた往時の思い出と、将来に絶望し自らの命を絶つ経営者たちの様を対比させると、この業界に長くいた私には寂しい限りである。