旭川から発信する情報コンテナ月刊北海道経済
月刊北海道経済は創刊以来40年。旭川市を中心とする道北地域の政治・経済・文化の話題を発信している雑誌です。
総選挙の直前、小泉純一郎首相が元首相の宮沢喜一氏と中曽根康弘氏に政界引退を促した。世代交代のために例外を設けず73歳定年制を適用するというもので、84歳の宮沢氏は素直に承諾したが、85歳の中曽根氏の方は「突然やって来て辞めろとは非礼だ。これは政治的テロである」と怒りを隠さずこれを拒否した。
報道によると、中曽根氏は公認問題については小泉首相と会ってじっくり話をして態度を決めたいとしていたようである。しかし首相サイドから何ら接触がないまま、引退を既定路線として自民党の選挙準備が進められた。小泉首相が中曽根氏に会う前に自民党群馬県連に届いた比例区北関東ブロックのポスターに中曽根氏の写真は載っていなかったそうで、これに中曽根氏の怒りが爆発したという。
国鉄民営化断行など歴代首相の中でも功績の大きかった大先輩に対する接し方としてこれでは余りにも非礼である。自民党内で「比例区北関東ブロック終身単独一位」との約束があったのだからなおさら、首相の方から2度、3度と足を運び世代交代の必要性を訴えるという誠意を示すべきであった。
マニフェスト選挙と呼ばれる今回の衆議院選では、民主党が「若さ」を一つの売り物としている。首相にしてみれば、49歳の安部晋三幹事長起用で清新なイメージを打ち出すことができたが、ここは例外なしの73歳定年制適用でもう一つ選挙民に強烈にアピールしようとのパフォーマンスが優先し、大先輩の気持ちなど考えてはいなかったのではないだろうか。
年齢を重ねれば、若い時の体力や能力に及ばなくなるのは当然である。しかしそれは個人差があって、一律何歳と線を引き引退を強いることはどうかと思う。女性の地位向上に生涯を捧げた市川房枝さんが参議院議員になったのは81歳の時である。西ドイツのアデナウアー氏は73歳で首相となって戦後復興を先導した。スキーヤーの三浦敬三氏は99歳でエベレストから滑走し、さらに目標を掲げて体を鍛えている。
私は青年大学の理事長を務めている関係で多くの著名人とお会いする機会があるが、最近とくに印象に残ったのは日野原重明氏である。今年92歳になるが、精力的に著作や講演活動を続ける一方で、聖路加国際病院でボランティア診療を続けている。ちなみに1日の睡眠時間は4時間ほどだそうである。また、老人であっても新たなことに挑戦していこうと『新老人の会』を発足させている。パワーみなぎる日野原氏と話していると、65歳になる私自身がまだまだ未熟だと思えた。
日野原氏と活躍の舞台は違うが、中曽根氏もまた衰えないパワーで憲法改正、教育基本法改正といったライフワークに引き続き取り組んでいきたいと考えていたのだと思う。
幸いこの引退問題は、中曽根氏が小選挙区での出馬を断念しそれ以上の混乱は避けられた。中曽根氏は「議員バッジを外しても政治家としての活動は続ける」と話している。いまや日本は内外とも大きな岐路に立たされている。今までの豊富な経験を生かし日本の指南役になってもらいたい。
日本はなんだかんだいっても肩書きがものをいう社会である。アメリカやヨーロッパなどでは大統領や首相経験者が議員を続けることは稀である。最高指導者であったという経歴でその後も尊敬され、社会や世界で活躍される場が与えられているからだ。対照的に日本ではバッジをはずせば「ただの人」で影響力はなくなる。峻烈な政治の世界で50年余り生きてきた中曽根氏はそのへんのことを肌で感じ議員のポストに固執したのではないだろうかとも思う。
さて、小泉首相が強行した世代交代劇にお年寄りの有権者はどう反応するのであろうか、見ものである。