北海道経済 今月の視点【2004年05月号】政治家の親族は“みなし公人”

今月視点

【2004年05月号】 西田 勲

政治家の親族は“みなし公人”

私は出版業を業としている立場上、田中真紀子衆議院議員の長女の私生活を報じた週刊文春の出版禁止問題には人一倍興味を持った。

記事の内容は長女の離婚話を扱ったものだが、離婚に至った裏事情やどろどろした愛憎劇もない、週刊誌としてはおとなしいというか、はっきりいうとつまらない記事である。書かれた長女の立場になってみれば「重大なプライバシーの侵害」となるのかもしれないが、一読した限りでは、出版差し止めを求めるほどの内容ではないと思った。むしろ、私も含めて記事を目にした読者が印象付けられたのは、母親である田中真紀子氏の気位の高さ、尋常でない支配欲の強さだろう。「どこの馬の骨とも分からない男に娘をやるわけにはいかない」「絶対に結婚は許さない」「財産目当てなのでしょう」「家柄が違う」と、結婚を認めてもらおうと説得する長女に耳を貸そうとしない態度。文春側がこの記事を掲載した狙いも、政界に大きな影響力を持つ田中真紀子という政治家のそうした人間性を暴露するのが主だったのだろうと思う。

さて、東京高裁はこの文春の出版禁止仮処分を取り消す決定を3月31日に行った。長女と元夫の訴えを認めて東京地裁が即日下した差し止め仮処分からわずか2週間。東京高裁のこの“スピード判断”を、私は「良識ある妥当なもの」と高く評価したい。

今回の問題で、一番の争点は、政治家の親族は公人なのか、または私人なのかという点だった。東京地裁の出版差し止めの理由も「政治家の親族は純然たる私人である」というものだった。

しかし、本当に政治家の親族は純然たる私人として扱うべきなのだろうか。ご承知のように、日本の政治家は2世、3世議員が多く、年々世襲の傾向は強くなってきているのが実情だ。基本的に世襲のない共産党と公明党を除く434議員のうち、3親等以内の親族が政治家である議員は210人、およそ半分に達しているのである。また、公設秘書に妻や子弟を採用している議員は多く、その是非を巡って国会やマスコミで議論されている最中である。

閣僚の資産公開では、議員本人だけでなく、妻や扶養している子ども名義のものも報告が義務付けられている。その人の資産がいくらあるのかということは重大なプライバシーである。その公開を国が義務付けているということは、ほぼ公人と位置づけているということではないだろうか。言葉を変えれば「みなし公人」である。

確かに週刊誌は売らんかな主義で、興味本位の行き過ぎた報道が目立つことは否定できない。しかし一方では、きわどい領域の取材から巨悪に迫り暴露することもしばしばある。ロッキード、リクルート。国会議員の疑惑追及。新しいところでは、厚生省の厚生年金を巡るずさんな運用の暴露。大手新聞では斬り込めない権力の暗部を表ざたにしている。

新進評論家の福田和也氏が週刊新潮のコラムでこう書いている。「拙劣な記事や人権侵害があったとしても、しかし、そういう一切合切を取りあえず認めるということでデモクラシーは成り立っている。表現の自由とかプライバシーの問題とか、政治家の子弟は公人か私人かなどという議論は2次的なものだ」。

記事の内容を判断するのは読者である国民。出版前に正邪の判断を下し国民の手にわたることを封じるのは、民主主義を封じるということではないだろうか。