北海道経済 今月の視点【2006年04月号】「あ〜もったいない」

今月視点

【2006年04月号】 西田 勲

「あ〜もったいない」

旭川市内には数多くのリサイクルショップがある。不要になった家具や家電を買い入れてくれ、また新品同様の中古品も売られていて、なかなか重宝な存在として市民に親しまれている。そのリサイクル業者が今、深刻な問題に直面しているのをご存知だろうか。4月から『電気用品安全法』が実施され、2001年以前に製造されたテレビや冷蔵庫といった一般家電品や、アンプ、シンセサイザーなどの音響機器の販売が禁止されるからだ。

4月からはPSEマークと呼ばれる安全マークがないと、新品・中古品を問わず販売できない。違反した場合は、個人で最高100万円の罰金が科せられることになっている。こんな決まりが実施されることをほとんどの市民は知らないと思う。リサイクル業者でさえ「つい最近まで知らなかった」という人が多いのである。

市内のあるリサイクルショップの経営者は「こんな法律があるのを知ったのは数週間前。ほとんど寝耳に水の状態でどう対応していいか悩んでいる。最悪の場合、廃業ということになるかもしれない。同業者の中にはリース契約を結びPSEマークのない家電製品を貸し出す格好に出来ないものだろうかと対策を練っているところもある。いずれにしても今度の法律によってリサイクル業者の3割は厳しい状況に追い込まれる」と不安気な表情で話している。例年なら引っ越しシーズンのこの時期、一年で最も活気あるはずなのだが、業界全体が重苦しいムードに包まれている。

安全性を確認する自主検査などを実施してリサイクル業者自らが中古家電に安全マークを表示するという方法もある。しかし、煩わしく経費がかかるため、結局は店頭での買い取り拒否ということにつながる。そうなれば、今までリサイクルされていた家電品がまだ使えるのに廃棄処分されてしまうということになりかねない。

この法律はまた音楽業界にも大きな波紋を広げている。音楽ファンにとって垂涎(すいぜん)の的である年代物のオーディオアンプやシンセサイザーの中古流通が同じく4月から厳しく制限されるためだ。

坂本龍一、高中正義といった日本を代表する音楽家が名を連ねて「日本の音楽と芸術文化の発展に大きな支障をきたす」と、同法の緩和を求める署名運動を始めた。市内の楽器販売会社の社長さんも中古流通規制に反対の立場で「今のものより70年代のギター、アンプ、シンセサイザーの方が音が良かったりする。法律の実施は音楽文化自体を否定してしまう可能性もある」と話している。楽器製造業者からも、中古品の流通がなくなると困るという声が強くなっている。電子・電気楽器の場合は下取りをして新品を買うという販売スタイルとなっており、流通市場の実情を無視した経済産業省が批判の的となっている。

ところで、これほど大きな波紋を広げている電気用品安全法の成立の過程はどうだったのかと言うと、国会で大枠の質問が行われただけでマスコミの話題になることもなくすんなりと01年に成立している。大義名分は「消費者の安全」である。

しかし本当は、消費者に中古ではなく新しい商品を購入させようという狙い、つまりメーカーの圧力で誕生した法律だとも言われている。過去に、中古品が原因で発生した人身にかかわるような事故例はほとんどない。あえて厳しい安全基準をつくる必要性は感じられないのである。

長年問題なく作動していた製品が「買い取り不可」となり資産価値を奪われるのは、ちょっと大げさかもしれないが財産権の侵害ともとれる。実際に下取りされない、買い取り拒否が増大することで、廃棄物が増えることは確かだ。平成不況の下で、モノを大事にする意識が育まれ「もったいない」という言葉も復活したが、そういった意識が薄れかねない。不法投棄の増大も懸念される。私も音楽ファン、オーディオファンの1人だが、音楽関係者が指摘するように名器といわれる年代物の流通がなくなれば音楽文化は廃れると思う。

周知徹底のために5年間の猶予期間をおきながら国民への告知に努めなかった国にも大きな責任がある。せっかく育ったリサイクルの意識、音楽文化を守る為にも何らかの緩和策を望みたい。