北海道経済 今月の視点【2007年07月号】北海道にバイオ燃料の基地を

今月視点

【2007年07月号】 西田 勲

北海道にバイオ燃料の基地を

先月に引き続き私事で恐縮だが、まだ入院している。5月上旬に転院し、いまは病院のスタッフのみなさんに文字通り支えられ、友人や家族に励まされながらリハビリに取り組む毎日だ。30兆円以上に膨れあがった国民医療費の削減の必要性が叫ばれているが、実際に入院して毎日増える新しい患者の姿を見ていると、当然のことかもしれないと感じる。

リハビリ室の大きな窓から、まだ雪が残る大雪山が見える。豊かな自然は北海道の魅力なのだが、近年、地球温暖化が自然環境に与える影響を心配せずにはいられない。

いま、地球温暖化の最大の原因である二酸化炭素(CO2)の排出量を減らすための取り組みが、徐々にではあるが広がっている。最近とくに注目を集めているのがバイオエタノール。空気中のCO2を取り込んだトウモロコシやサトウキビなどの植物が原料だから、大昔から地中深くにあった石油や石炭などの化石燃料を燃やしてCO2を大気中に放出するよりも、環境への悪影響が小さい。この4月末からは首都圏のガソリンスタンド50カ所で、ガソリンに3%のバイオエタノールを混ぜたバイオ燃料が販売され始めた。

日本は世界に名だたるハイテク国家だが、バイオ燃料の生産に関しては、アメリカ、ヨーロッパ諸国に遅れをとっている。見舞いに来たテレビカメラマンの息子から、今年取材したブラジルのバイオ燃料事情について興味深い話を聞いた。国内に巨大な耕地をもつブラジルは、第1次石油危機の起きた1970年代前半からバイオ燃料の研究開発に力を入れてきた。現在、ガソリンに25%のエタノールを混ぜた混合バイオ燃料と、100%のエタノールがどこのガソリンスタンドでも並行して販売されている。日本国内のガソリンスタンドがガソリンと軽油を取り扱っているのと同じだ。自動車メーカー側の取り組みも前向きで、ブラジルではガソリンとエタノールの混合比率を問わない「フレックス燃料車」が販売されている。世界最大のエネルギー消費国、アメリカでも中東の原油への依存度を下げたいとの思惑が働き、エタノール使用量を大幅に増やすことを定めた法律が制定された。

そしていま、日本でも同様の動きが広がっている。とくに食料生産基地・北海道への期待は大きい。帯広ではビートを原料にしたエタノールの精製実験が始まっているし、合同酒精の親会社、オエノンホールディングスはコメからエタノールをつくる実証プラントを苫小牧で設置すると発表した。国内のほかの地域、たとえば佐賀県でも休耕田を復活させてバイオ燃料用にコメを生産しようとする動きがある。

一方で、バイオ燃料の需要拡大は、私たちの食卓に並ぶ農作物の値上がりを招いている。消費者にとっては困った話だが、見方を変えれば、これは価格の低迷や輸入品との競争に長い間苦しめられてきた農家にとっては追い風となる。日本の食料生産基地を自認する北海道の経済にとって、決して悪い話ではない。エネルギーの地産地消でCO2の排出量が減り、輸送コストが減り、経済が潤うとすれば、まさに一石三鳥ではないか。

リハビリ室からの視線を病院の周辺に移すと、水田で田植えが行われているのが見える。しかし、旭川の郊外や近郊の町では、減反や後継者不足のために休耕している農地も多い。上川はコメどころであると同時に酒どころでもあり、アルコールづくりに関するノウハウが豊富にそろっている。バイオ燃料への関心が高まっているいまこそ、官民はこの新しい商機に注目するべきではないだろうか。バイオ燃料がクルマだけでなく、旭川経済にとっても新たなエネルギー源になるかもしれないのだから。